坪田保雄さん(旧3年4組)の近況報告

「大江戸師走はローカルにワープ」

オフィスに電話がかかってきた。かけてきてくれたのは井上斎君。
8月の同窓会以来、顔・声のイメージを瞬時にシンクロさせて彼の言葉を待つ。
「ミニ同窓会をやるから来ないか。」待ってましたとばかりに「行くぞ」との返答。
12月22日18:30、指定された八重洲中央口。まず現れたのは村田収君、続いて山出恵治君、福永富夫君迄は順調、しかし幹事の井上君が遅い。
日本全土に強烈な寒波が襲来中なれど、幸いにして外の吹きさらしにはあらず、雑談を交わすほどに真打登場。
幹事抜きにては本日の会場へは行き着けず、故に誰一人苦情を言うものもなく指示に従い歩くこと10分「ウスケボー」に到着。
筆者注:「ウスケボー」はスコットランドのウイスキーの語源にして、ここではニッカウイスキー系列のパブレストランの名前。

ウイスキー屋のニッカ系列ではあれど、日本の伝統的ビジネスマンの定番としてとりあえずまずはビールで乾杯。東京在住の近江八幡周辺出身者という極めてローカル色の強い地域限定同窓会であることを全員が確認して舌戦開始。
しかし、最初の小手調べはやはり今話題の姉歯。「問題の本質は何か」と問われ、井上、坪田はいささか業界に関連がある・あったものとして、直ちに「職業倫理の欠如である」と断定。プロとしての誇りを持たぬものはその仕事に従事する資格なしと厳しく断じ、業界の不祥事を慨嘆。
されど、例えば、医療現場、監査法人、行政等においても職業倫理の欠如はいたるところに見られ、耐震偽造もその一部としてみれば、日本の社会がますますモラルを失いつつあることの証明であろうと全員一致で結論。
これにより、全員が今は良識を持った健全な社会の構成員であることを互いに確認し、後顧の憂いなく乱戦に突入。

宇宙戦艦ヤマトよりも素早くしかも無動力で全員がワープしたのは40年前の滋賀県近江八幡市近辺。勿論、全員が未だ良識を持つ以前の高校時代。湧き出る話題は森羅万象、古今東西、老若男女、空前絶後、手当たり次第。論ずるものあれば批判するものあり、訴えるものあればはたまた交ぜ返すものあり。扱われた話題を例えれば、今は大宇宙はアンドロメダ大星雲にあると思わば、次に冥王星のかなたにまで飛び、あるいはまた小惑星イトカワに着地するというスケールの大きさ。しかし、会合を振り返れば話題は稲枝より北に及ばず。高校生にとって、生まれ故郷近在は大宇宙をも凌駕。
無動力なれど、いささかのエネルギーの供給は必須にて、ウイスキー屋に申し訳なきことながら次の注文は鹿児島の芋焼酎。ハイブリッドカーより燃費効率良く、芋焼酎は灰色の脳細胞を刺激。

映倫、放送コード、文部省選定教育漢字等のあらゆる規制を外しての談論風発にして、その内容については一切の公表は差し控えるべきものの、以下に示すは同窓生の知る権利に配慮したるその一端。(真実は、坪田の中央記憶装置が加齢のため劣化し一部の再現のみが可能。)

・ 彦根東高野球部は何故3年間、夏の大会予選一回戦で敗退せしか?
 元野球部員にして名遊撃手の村田某氏によれば、それは約束されたる負けなりと。その心はと問われ、やおら春先から始めた練習の疲労がピークに達し、真夏の暑さと照りつける強烈な太陽の光の相乗効果により、試合日にはバットが重いと。「バットが重い」このすべてを籠めた哲学的な表現により知りえたことは、40年前の暑さの中で発した我らの応援の絶叫は徒労。いまさら、「僕の青春の一日を返せ」とはいわぬが、思うは3年間も同じことをしたのかよという疑問。4年目があったならば学習効果の結果、校歌を歌えたかもねという夢想。されど村田某氏はこの教訓を己がビジネスに生かし、いまでは部下にプロジェクト遂行のためには合理的な計画の立案と適切な進捗管理が重要であることを説く立場に至る。ご同慶の至りなり。

・ 井上某氏若かりし時新宿歌舞伎町にてテキ屋を相手に武勇談
 某建設会社に勤めし折、テキ屋が「工事のため出た売れ残りを買い取れ」との難癖。これに対し、「山ほど人が歩いているのに売れぬは営業努力の不足、文句あるか」と切り返し、相手は勝手が違って慌てて退散。その後、歌舞伎町界隈を知るにつれやったことの無謀さに本人改めて冷汗三斗。無知ゆえの怖いもの知らずなれど結果オーライ。相手が過大評価して逃げるも、運も実力のうちにして向う意気の強さはそのまま矯正されず今に至る。ご同慶の至りなり。

目から鱗なる貴重な情報が山ほど飛びかうも、記憶装置不調のためこれ以上のデータは呼び出し得ず残念。他の4氏に確認頂くは自由なれど、劣化の程度は甲乙付け難しが小生の予測。

団塊の男どもの井戸端会議は止むところを知らざれど、いよいよ名残惜しきお開きの時間にして、記念写真などを撮り再会を約す。
それは「二眼レフか?」という極めつきのローカルな突込みにも耐え、うら若きウエイトレスにシャッターをお願いせしが添付の一枚。
意識はワープすれども肉体はワープせずの哀れ。

束の間の夢想世界に別れを告げ、コートの襟を立て、背中に男の哀愁見せつつ日常世界に戻らん。

これにて、「大江戸の師走はローカルにワープ」の段、全段の読み切りで御座います。

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